周囲の話
ミナの懺悔
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。あの子は悪くないんです。
――いいえ、私は落ち着いています! ……すみません。やっぱ、落ち着いてないみたいです。
でも、信じてください。あの子は悪くないんです。
……すみません、少し、待ってください。……はい。ええ。話します。けれども、どこから、どこから話せばいいんでしょうか?
あの子はいつも楽しそうにしている、いい子でした。他の人はあの子を控えめな子だと思っていたようですけれど。
けれど私と一緒の時は、よく笑う楽しそうな子でした。ただ、少し触られるのは苦手みたいでしたが。でも、それだけです。
……きっと、私とくらいしか話さなくて、男子からは逃げるように会話を避けていたのが、控えめな子と思われる原因だったんだと思います。
けれど、いつからかあの子は佐藤君と挨拶を交わすようになりました。
いい変化だと思いました。あの子は少し私に依存しているようでしたし、佐藤君は明るくいい人だったからです。
ええ。彼はとても明るい人でしたよ。
だから私にとっては好ましかったんです。けれど彼は人気でしたから、彼のことが好きな一部の子達はよく思わなかったようで……二人の仲を邪推している噂が、飛び交いもしました。あの子は完全に無視していましたけれど。
それからどれくらいしたかはわかりません。けれどもごく自然に、私は佐藤君を好きな自分に気づきました。あの子は佐藤君を好きと思っていない、といっていましたが、私は少し不安でした。佐藤君と話すとき、私と彼の話題はあの子でしたし、あの子も彼にはあまり緊張していないようでしたから。だから私は、彼に告白する前にあの子に私の思いを告白しました。
――あの子は、笑って応援してくれていました。……結局私は振られてしまいましたけれど。
彼が男性を愛する人と知ったのはその時です。
佐藤君に好きな人がいるのか、私は気になって尋ねたんです。もしかするとあの子を思っているかもしれない、それならせめて、応援してあげたい。そう思って。
けれど、彼が告げた名は、男子で。――それが誰かに聞かれていたのか、次の日すぐに噂になりました。
それから佐藤君は休んでしまって、あの子はその噂にも反応しなくて。私は自分が告白して振られたことだけ、あの子に言いました。
それから少しして……佐藤君は、佐藤君は、佐藤君は……っ!
……すみません。気持ちのコントロールが、上手くいかなくて……はい。有難うございます。
……そうです。佐藤君は、亡くなられました。自分で、自分の生涯に幕を引いたんです。
お通夜とお葬式に、あの子と二人で行きました。
……あの子の様子、ですか?
……泣きも笑いもしませんでした。ただ、すごく辛そうで、眉をしかめて、真っ直ぐ前を向いていました。 けど、まさか、あんなことをするなんて……思ってもみませんでした。
あの子は優しいんです。なのに、あんなこと……そこまで彼を好きなんて、私は気づけませんでした。友人なのに、気づけなかったんです。
――だから、私が悪いんです。あの子は何も、悪くないんです……!