(2021年に別所で投稿したものを再掲したものとなっています。)
主人公は1、2。1は視点持ちで能力が少ない(能力の高さについては刑事などの力量ではなく物語の特異な部分を軸としてはかった場合である)。2は視点がいかず能力が高い。1の立場で2の魅力を描くために事件があるのだが、いわゆる恋愛物とするには恋愛要素が薄すぎる気がする。今回の場合、事件=テーマが結びつきにくい。
テーマ:主人公1と2の恋愛
機動力:不可思議な事件
これらを題材としたとき、他作品では機動力を使ってテーマに必要な人間の魅力を描くなどする。そういう意味では今回のケースも当てはまるが、人間の魅力を描くのと同時に、事件の根本にどちらかの主人公、もしくは両方の因縁を入れることで、機動力=課題という形を作りだし、機動力の解決によるカタルシスを高めていることが多いものである。なお、恋愛主軸の場合はこのカタルシスよりも恋愛がテーマなので、存在しなくて問題ない。存在することはある(相手の影に気づき支えるという意味で)が必須ではなく、解決の仕方もその場合登場人物の心配りが重要であり、精神論的な部分も多くなる。
テーマと機動力の組み合わせだが、これらは簡単に組み替えることが可能なものだ。それらの組み合わせを無意識にでも意識的にでも書き手が選んだ上で、話をかいていくのが長編では多い形だろう。短編では、逆に統一しないと難しいようにも思う(うまくやっているひとはうまくやっているとは思うので、これは個人的な印象だ)。基本的に私は長編の時、AがBになる変化を描く。これがいわゆるテーマであり、機動力はその変化を与えるためのものだ。
今回の件は事件=テーマとなりづらいと言ったが、まず簡単に現状を整理する。テーマは主人公1と2の恋愛である。単純にラブコメにする場合、ここは機動力を別に設定する必要がない。いや、正確には機動力がラブコメになると考えるべきか。コミカルな恋愛模様を機動力にして、主人公1と2がつきあうようになるまで、1が片思いで告白できない現状から両思いになってどうにかこうにかやっていく部分を描くのが望ましい。この場合テーマが恋愛=ラブコメで一致しており、読み手の望みも恋愛なのでおそらく一番王道的だ。開始は既に1が片思いしている状態から始まるのが望ましいだろう。やっかいなことといえば、私がやりたいことはこの段階からではないという事実だ。
前述のような流れならターゲットも作品もわかりやすいが、自身の望みからずれている点を自覚する必要がある。正確には、「この段階をかきたいがその前段階をやりたい」だ。そして優先順位としては、前段階の方が私にとって重要と言うことである。
そう考えると、私の主軸は恋愛とはいいづらいのではないか? ここでもう一度テーマを見直す必要がある。「1と2の恋愛が書きたい」は事実だが、言ってしまえば「1と2の恋愛関係を描写したい」とはまた違う。探偵記録者で言えば、あの話は「凸凹コンビがバディになる物語」であり「バディを描く物語ではない」のだ。
そう、探偵記録者で考えるとわかりやすいかもしれない。私の根っこでもあるし、こちらの構成は今回にも当てはまるのではないだろうか。バディを書きたくて書いたのはあくまで続編だ(なので、読み手が少なくても私がようやく書けたと感じるのは続編である)。本編は非常に気に入っているし思い入れもひとしおだが、本編があるから続編が書けるし、本編は「望む関係性を得るための物語」だった。
探偵記録者のテーマはいくつかある。先に言った「凸凹コンビがバディになる物語」は大きなくくりだ。そしてそのバディになる為に必要で、かつ私が書く動機となったのが「横須賀一を幸せにしたい」である。これは願望であり、テーマとして言えば「横須賀一の成長」だ。さらにややこしいことに、私が書きたかったのは能力の成長ではなく、その能力を肯定する、自己肯定感の育みと望むことを良しとする物語が探偵記録者だった。成長は能力ではなく、欲しがる、というメンタルの問題だったのが大きいところだろう。
このテーマの為の機動力・推進力が謎である。探偵記録者は、怪異・謎・事件。これらがフックとなり、かつ進む為の理由になる。事件を通して人物を描き、横須賀と山田の課題や変化を書いていく――構成に課題はあるものの、それでもある種王道の仕組みだろうものが探偵記録者だった。テーマとしても、AからBの変化を扱う物は長編としては扱いやすいといえる。
ならば、今書きたい鬼塚と村山の話も、恋愛を主軸でなくても好奇心を持たせられないだろうか。ホラー・土着信仰・謎・警察といった要素は一定数の好奇心を持たせることになる。
ただやっかいなのは、恋愛という要素だ。大きな主軸の事件に対して、アクセントの恋愛を好む人間はいる。が、同時に邪魔と感じる人間もいる。ちなみに私は後者側だろう。バディ物をみていたらバディ同士が恋愛した、みたいなのが苦手なタイプだからだ。
この件に関しては、最初から恋愛要素を含む注意書きで対応したい。現在の話では作中でそうなる未来を示唆する言葉を入れたが、これに関しては削った方が作品に集中しやすいのでは? と思って削りたいが、扱いが難しい。たとえばドラマなどではふわっと恋愛要素のような発言や表現はあるものの、あくまでそれを向けられる主人公2はそのことを認識する必要はない。この、「恋愛要素になるかもしれないが作中では明言されない」は推理物だけでなく職業物でそれなりに多いものだ。もしくは主人公ではなく周辺人物の恋愛要素にとどめる、なども多い。恋愛ががっつり絡むのが野暮なのか、話の構成か、キャラクターの魅力かどれかはわからないが、「恋愛ではない信頼の関係」が好きな個人としては、この案配は非常に難しいものだと思う。一方的な感情があっても、主人公が明確に応えないという手法は多いのだ。
だからこそ、テーマの恋愛と機動力について私が非常に悩んでいる、ともいえるが。探偵記録者で似たような構成を経験していながら、それとはまた別の認識を私はしているのだろうと思う。
まあ、悩んだところで書きたい物は変わらない。より具体的に考え、その中で要・不要と向き合うべきだろう。
1と2の恋愛を書きたい。詳細に言えば1が2に恋する理由を書きたい。さらに言えば、それは2がどのような人物か、ということを書きたいとも言える。
この場合、実は視点主を1と2どちらに選ぶか、という部分も思考すべき点だ。はじめに言ったドラマなどである構成で考えれば、そして自分自身が書いた探偵記録者から考えても、能力が少ない人間が視点主であることは扱いやすいといえる。これは事件に対して謎の要素・好奇心・説明がしやすいからだ。
逆に、能力が高い人間を主軸にすることで能力者の事件への向き合い方を濃密に描いたり、人間的課題などを扱うことも出来る。好意を向けられる側である場合は、気づかない2の視点を扱うのもありだ。実際閲覧側に気づかせない手法で、事件とは別の納得を生み出すのもよし、気づかせた上でつっこみを入れさせるのもよし、というやつだ。この能力が高い側が視点になるのはブラック・ジャック方式とも言えるだろうが、これについては同時にドラマや漫画的であり、視点はゲストキャラに行きやすい印象が個人的にある。
では今回は1を望んでいるが、それが最適かどうか。まず、話の流れとしては1・2が主軸であるのが前提。事件はゲストキャラではなく1が持ち込む形である。また、この事件については医療物や客が来店するタイプの職業物と違い、2が扱うのは死人の為に、2が生きている人間と実際触れる確率は非常に低い。この場合事件を持ち込む1が外を調べに行くので、活動範囲は1が基準だ。ゲスト→能力者の構成はないので、1が視点主の方がわかりやすいのは確かである。
2を視点主にするメリットは異能力などのわくわく感だろうか。好奇心をそそらせる状況を作り出せれば、これは2を視点主にするのはよいメリットだろう。だが、解剖学などに自分が詳しいわけではない。またこういった「調べる」と言った立場の人間が題材の職業ドラマなどでは、調べるシーンはあくまで「魅せ」シーンであり、調査に動く実働シーンが必要である。いわゆる職業技能をふんだんに使う異能シーンはあくまで決めシーンでしかない。言ってしまえば安楽椅子探偵はあくまで安楽椅子探偵であり、持ち込む人間の事件がメインになるということだ。サブキャラの方が視点に向いているだろう。
実際の想定も消去法的考察でも1が視点主でよいということが判明した。これが2にした方がいい場合は1の感情を理解できない2を描く場合であり、その場合は恋愛物主体として、の方が適当だろう。視点を1に固定し続ける必要はないが、主軸は1とする上で、事件を扱い、その中で2への気持ちを重ねていくのが望ましい。現在先に書いている話も実際そうなのだが……もう少し、話の流れを考えるべきだろう。
話のフック、というのは難しい。現状書いているのは1と2の出会いだ。1が2に感じたものの変化を書くため、2の人間性を書くために私はワンクッションを起きやすい。ただ、恋愛としても事件物としてもありであるからこそ、もう少し興味を示させるためのものが書けないか、というのが現在の課題だ。
出来たら会話で見せるのがわかりやすいだろうか? ただ、ドラマと違い人間の顔立ちが伝わらない。かといって外見を揶揄するような物言いをする人間は主要人物にいれたくない。難しい問題だ。フックについては保留して、話の流れを考えてみようか。最終的に冒頭というのは、すべての可能性を示してしまえればちょうどいいのだから。私にとってはじまりとは「魅せ」や「終わり」の為のまとめなのである。ぐるりと一周できる、そういう作品が自分の趣味なので、流れを考えることは私にとって無難な選択と言えるだろう。
話の流れとしては、1と2の出会い・1が2を知るという構成の為に使われるのが事件である、ということに代わりはないだろう。先に述べた推進力である。
1はオカルト関係を扱う部署に最近配属された。そして、配属後の最初の事件と出会った。そして事件の調査の一環で、2と出会う。……これが最初の流れだ。ここにあるフックは「配属」「事件」「出会い」である。
現在書いた話は、「出会い」から始まっている。1と2の物語であると自己紹介するためだ。2に対する印象を描く、という意味でこれは好ましいと言える。
ただ、2については、世間一般で言う「好まれやすい女性ではない」という課題がある。私の趣味ではあるが、趣味をそのまま素材でお出ししている現状、なんだこいつ、と思われる状態だ。なんだこいつ、が、いい人である、と伝えるのが流れではあるが……とりあえず、なんだこいつ、の出会いを最初にやるのが本当に好ましいかというのは悩みで、今その考察のために流れを考えているのでひとまずおいておく。
配属については、あまり面白味がないと思う。これは1と上司の出会いになり、1と2の関係にはさほど関わらない。ここで描くなら、1の人間性だ。1が魅力的であり応援したくなる……そういう人物ならいいが、2だけでなく1もなかなか癖が強い。ひたすらまじめなだけの怖い顔のむっつりした男なので、面白味がない、と思われかねない場所でもある。
事件について――これは、やり方だろう。ショッキングなシーンを描いた上でやっていくか、という問題だ。ただ、ここの切り口はいくつかある。「被害者」「事件そのもの」「事件に関連する別の事件(この事件の後今の事件がある、のような流れ)」「事件を扱う2の業務様子」である。ただ、事件を扱う2の業務様子については、視点主が1なのに最初2になるのはどうなのか、という問題があり……このあたりもややこしい。
とにかくそのような流れの後、1は2と交流を重ねる。……といっても、2の仕事は事件のメインではない。1は事件を探りながら、時々2と会話する形だろうか。言ってしまえば、1は「安楽椅子探偵に事件を持ち込む人間」とも言える。1の視点で事件のおぞましさ、ままならなさ、そして2の知識や優しさを見ていき、1が課題を持って悩んだときに、2が1を信頼してくれる。その確かな信頼が1の背筋を伸ばさせてくれ、事件解決の一歩を踏み出させてくれる。そして、事件解決後1が2に感謝を伝え、そして2の仕事が被害者家族に良い結果だったと報告したとき、2が素直に笑う表情に恋をする――こういう流れが現状書きたい内容だ。
現状のこの流れに不満はない。が、これをもっと真摯に書けないか、という欲望はある。恋をするのにもっと話数を掛けるタイプだ。お前ラブコメしたいのに先延ばしにするのか、という自分のつっこみは聞こえるのだが、物語としての面白味、をもう少し考えたい。
多分私は、恋愛主体でない話が好きなのだ。その中で恋をした人たち、というものも好きなのだ。恋愛しない話が好きだけれど、それはそれとして、恋愛主体でなく業務をしながら、ひかれ合ったひとを今回書きたいのかな、と思う。そうなると、この構成に話数を追加する必要がある。
現状あるのは1が2に惚れる流れだ。そして、では2が1に惚れるのは? という問題。ただ、ここはどちらかというと、寄り添った人に恋をするでいいからあまり気にしなくていいんだよなぁという心地がある。では、2の課題を解消させられないだろうか。
探偵記録者では、1も2も課題を持っていた。そしてひとりの課題は事件の全容にも関わっていた。
今回、2の課題を事件の全容と絡めるかというと、最初に言ったようにそういうイメージはない。ただ、事件を通して2の精神的課題に触れる、ということも出来るのではないだろうか。事件の原因をキャラクターが持っていた、というのは王道だ。けれども、そこまでしない、普通の人でも、業務の中で変容していいのではないだろうか。
その場合、2の課題はどのように解決するだろうか。仕事との向き合い方? 人との向き合い方? 2にとって事件はどんな意味を持つ? これによって、2の業務の描き方も変わってくる。
今回の話に登場する2は、平凡な女性だ。見目はあまりよいわけではない。これは物語でよくある「普通と主張はするが客観的に見て整った顔立ち」ではなく、「癖のある顔」と言われるだろうパーツで成り立っているので、閲覧側が好意を抱きやすいとは言い難い。いわゆる「男に見える女」のような形での魅力でも、「こじんまりしたコンプレックスを抱えたかわいらしさ」でもなく、あたりまえに自分を受け入れ、生きる人間。平凡で、けれどもだからこそ、「物語」という場所では特異に見えかねない人。
思考のままに書いているので話がとっちらかっていくのは今更の話だが、とっちらかったままに考えると、おそらく、2は共感を得難い人だろう。
「物語」において、「主人公の見目が良くない」は少し特異な色を持つ。この特異性にいわゆるキャラの属性をつけることは少なくない話だ。目隠れ・糸目(にみせて目が開くとか)・外見コンプレックスと、なんらかの手段でそれからの解放・平凡な顔だが特殊な能力を持った特別な人間etc…まあ、手を変え品を変えよくある話である。もしくはその外見からの脱却・変身願望のような物など。けれども2は、このどれでもない。
ただ、特別美しいわけでもなく。へらりとした顔立ちで、外見にコンプレックスを持っているわけでもない。のらりくらりとして、受け止めていて、飄々として見える。……どうみても主役タイプではない。サブキャラだ。この「物語の主人公としてのフックのなさ」という特異性を私は大事にしたいし、そして利用したい。
そう、利用したい。世間受けを考えるといつも私は鬱々としがちな面倒くささをもっているが、同時に私のやりたいことを手放さない執念深さも持っている。良いか悪いかは不明だ。いっそそんなものなければよかったのかもしれないとさえあるかもしれないが――持っているものを私は捨てられないので、この芯を軸にする。明確な軸、は、ある意味私の強みかもしれない。
2は自身の外見が、一般的に美しいわけではなく、もっと言えば普通よりも少し、癖のある顔立ちだと分かっている。けれども、別にだからといってなんだろうか。外見にこだわる必要などない。彼女は生きていく中で、自身の見目で困ることはさほどなかった。――いや、完全に無いわけではないが、困難だと思うほどではなかった。自身を決定的に嫌ったり、鬱屈するほどではないのだ。こういう感情は、どこかの誰かにもあるんじゃないか、と、思う。美しさ故に苦しみ喘ぎ憤る人も、自身の外見コンプレックス故に苦しみ喘ぎ憤る人も世界には確かにいよう。そしてそういう人たちの物語は、やはり世界にある。
同じく、さほど美しいわけでもなく多少コンプレックスを持ちながらも、嫌悪するほどではない、という人も世界には確かにいる。そして私は、その場所を好意的に書きたいのだ。
2は、外見コンプレックスをさほどこじらせていない。自分の業務も、誇りに思っている。職場の人間との関係は、それなりに良好。物語としては面白味がないと言われるかもしれない。現実よりも甘ったるく、それでいて物語にするには華がない、という考えもある。けれども2はそれでよく、そして、物語に混ぜるのならばささやかなものがいい。
主軸は1の問題と、機動力の事件だ。2の問題は、少しずつ、小出しに、私が書きたいものにしたい。私が書きたいもの、それは――満たされて見える人の、隙間のような寂しさだ。
生きることに問題はない。課題と言うほどではない。それでも、人というのはどこか、さみしさを持っているのではないだろうか。笑っている人の寂しさ。といっても、大きな闇ではない。悲劇ではない。そういうものは、よその創作にある。私は、大きな問題にならない、それでも確かにある寂しさを書きたい。
2は、飄々としている。冗談だって言う。ともすればふざけた人間に見られやすい。2自身、そんな自分の見え方を分かっている。
けれどもその中には、人に気を使う優しさ、人の誠意を拾い上げる誠実さがある。そういうところに1は信頼し、彼女の素直な表情に恋をする。
2は、当たり前に自分が信用されにくい外見であること、深刻さが見えづらいと言うことを理解している。2は素直だが、人に甘えることは少し難しい。気遣いが、頼る一歩を選ばせないのだ。それに、2自身、なんとかなるのをわかっている。
相手に軽く見られやすいのを分かって選んでいて、そうした結果、自分の少しの寂しさを吐露しづらい。吐露したところで、それを冗談で軽くしてしまう。
2は、主人公らしくない。登場シーンなどを見ていれば、共感を持ちづらい。だからこそ、この、誰かが持っているような寂しさを、ぽつぽつと、ゆっくり零してほしい。そしてその零れたものを、1が拾い上げてほしい。
物語の流れで考えるなら、少々共感はしづらいだろうが応援したい人間として、そのまじめさと事件へ関わると言った部分で1を描いていく。1は、特別好き、とはなられずとも、読んでいくうちに読者がいくらかポジティブな感情を抱くだろう。悩み、向き合い、進む姿に、ほんの少しでも近しさを持つかもしれない。抱けない場合は、途中で読むことが困難になるだろうから、抱いているだろう、という想定で構わない。
1が拾い上げる2の姿で、読者には2への好意を持ってもらいたい。怪しい人間から、いい人かもしれないと言う部分。そうして1が自身にできない能力を持つ2に敬意を持つ――その隙間で、2が遠くならないように、2の寂しさを零す。2の寂しさが、ほんの少しでも読者に共感のような、ああ、この人は、生きている人間なのだ、と、そんな実感を与えられたらいい。そして、その2に寄り添う1の姿で、1への好感を重ねるといい。
だから、この寂しさは、事件と深く関わりすぎてはいけない。そうしてしまうと、2が「特別な人」になってしまうからだ。特異な能力にあこがれ、その人が側にいること、その特異故の悩みに寄り添うことを描いた作品は多い。好まれやすい。けれども先に述べているように、私が書きたい物はそうではない。
私が書きたいのは、当たり前に生きる人の、隙間の寂しさなのだから。
だとすると、私は2の人との向き合い方をやはり主軸にするのだろう。事件は2の人生を決めるものではなく、あくまで業務で、時間経過の流れとなる。2はただ、当たり前に、日常を生きている。死んだ人に思いを馳せ、悼み、それでも業務としてこなしていく。当たり前に笑みをこぼせる日常を。
だから事件は、1が2と関わるきっかけと、時間の流れを示す。ひとつめの事件は、2の人となりと業務を伝える、1と2が出会うための事件。だからまずは2の業務を伝えるべきだろう。そうして、最後に2が笑う姿に、その表情に1が心を揺らす。現状考えている展開がだいたいそのまま使える。
ふたつめの事件は、1と2が当たり前に会話する姿を描くためだ。起承転結の承にあたる。このとき、あくまで冗談のように軽い調子で話す2と職場仲間を描く。2の職場での立ち位置、ふざけた調子で、飄々とした姿。ひとつめの事件はあくまで2の紹介であり登場人物を絞るが、ここで1と2の周辺人物を紹介し、2の当たり前の日常を書いた方がよいだろう。
みっつめの事件は、ほんの少しだけ2の心を揺らす事件だといいかもしれない。それは2が事件当事者、というわけではなく、2が持っている過去の思い出を揺らすもの。ほんの少しの寂しさと、届かなさ。事件は解決しても少しだけ残る、遠くにおいてきた気持ち。事件の最中でもおしまいでも――いや、これは事件の最中が良いかもしれない。偶然業務外で会って、冗談のように吐露された寂しさを、まじめに受け止める1。事件が終わった後、2と当たり前に会話するけれど、その業務外での話したことを、二人だけが分かる形で小さく言葉を交わしあう姿。
よっつめの事件は、ちょっとしたアクシデントとして1が危険な目にあうといいかもしれない。ただ、あまり大きな被害は出さないし、よくあるお話のように2が1の危機を助けると言った展開はない。2が2の業務を果たし、1も回復した上で事件が解決して、よかった、と安堵の表情を見せる2に1がまた心揺さぶられる、という流れだ。この四つ目の事件を最後の事件とするので、もし時間が足りなければこの前にもうひとつくらい事件が入るかもしれない。ざっくりとした流れが見えたので、それだけにしておく。プロットは書かないので、私がいつも頭でこねるのは、こういう、エンディングまでになにがいるか、というぼんやりとした流れだけなのだ。プロットを書くと私は道を外れないようにしなければと気を使いすぎるので、こういうぼんやりとしたくらいでちょうどいい。AがBになるために、どんな物が必要なのか。私にとって大事なのは、あくまで目印の旗であり、道ではないのだと思う。
こうしてみると、本当に1と2の関係は事件の関わりが薄い。けれども、1と2が関わるには事件が十二分に必要だ。1と2の推進力である事件が事件である必要がないのは事実だが、1は事件と関わる人間であるし、2も事件と関わる人間なので、不必要とまでは言い切れない。けれども統一感がないまま進めることができてしまうため、事件自体に一貫性を持たせるほうが収まりがよいだろう。そのためこれらの事件は、いくらかの関係性があるもの、とする。
関係性については、結構たやすいものだ。というかこれについてはいくらかシリーズできたらなとぼんやりおもっていたので、現状の段階でも実はいくつかの要素を持っている。この要素に当てはめると実は五話になってしまうよなという問題もあるのだが――それはまあ、話の流れだろう。オカルト的な部分だからこそ、いくらかの関係をつなげることはそれなりに難しくない。あまり巨大なカルト的問題になると私は取り扱えないが、そうだな、小さなカルト間のつながりを描くことは可能だろう。たとえば、探偵記録者の続編のような、小さなつながりは私の好むものでもある。
書けるものの整理もする。専門的知識が無く、そこにがっつり時間を割くかというと割かないだろう自覚もある。書きたいものが技術なら別だろうが、私は結局、一貫して、人が書きたいだけであり、技術に情熱がないからだ。けれどもその人が関わるために事件が必要になる。推進力、興味。読み手へのフック。とすると、やはり最初に「この物語の推進力はなんであるか」を伝える必要があるのは確かだ。
ここまで考えてようやく、冒頭を考えるに至る。事件が物語を進めていくので、事件を持ち込んだ方がよいだろう。その事件がオカルトであること、2が特異な職に就いていること。オカルトミステリーへの興味。そして、1と2の物語であることを示唆するために、二人を登場させる。
本来冒頭は、会話メインの方がキャラクターがわかりやすいように感じる。ただ、これについては、映像作品でないので少々難しさがある。
さらに冒頭は、おしまいにつながるものだ。おしまいからつながるもの、とも言える。私が好きなのは、AからBになるという課程で、冒頭の当たり前が終わりでは別の物になっている、というものだ。読み返したときに、このときはこうだったのにね、というものがあるのも好きだ。ならばこれは2への印象と、2が一人で生きる人であることの示唆。一話では当たり前に、孤独と言うほど一人ではなく、けれども頼らないそのことを書いてしまうといいだろう。二人は協力するには遠い。けれども仕事で関わる――そういう距離が、最終的には縮まるといい。
オカルト事件→人、人→オカルト事件。順序として考えるとこの二つがある。現在書いてあるのは後者の人→オカルト事件だ。話の流れとしてもこれが一番すすめやすい。
もし2を主人公にするならまた変わった形で、人→オカルト事件の流れができるだろう。この場合は現在の流れである人(キャラ紹介)ではなく、人(2個人のひっかかっている過去)になる。
オカルト事件→人については、オカルト事件の描き方が作品によって変わる。たとえば被害者もしくは犯罪者に視点をあわせて事件が起きたシーンからの探偵役への描写はよくあるものだ。逆に探偵役が事件の調査しているシーンから始まるのもある。前者はいわゆるシリーズ作品向き、後者は長編(全体で流れがきまっているもの)向きと言えるだろうか。今回は長編なので後者かとおもうが、同時に事件の重要性が低いので前者の方がいいのでは、いや、むしろだからこそ事件の推進力を持たせるためにも後者が、と悩みがつきない。
ここまで考えて、私の力量ではすでに書いている文章の範囲ではないだろうか、みたいな気持ちになってきた。人→事件だ。ただフックが弱いんだよなーーーーーーーと本当悩む。なや。もしくは鬼塚にもう少し焦点をあてた形で人→事件か事件→人の流れか。第一話が助手役にとって意味がある事件、というのはそれなりにあるパターンでもある。そういう場合は助手にとって因縁があるのだが、私が書きたい話は因縁とは別なので、単純にこの事件デビューであるという焦点から、人の課題だ。
ああ、そうだ。ここまで書いて今更だが、そもそも恋するきっかけとなる、その笑顔をみる前の信頼の部分。そこは、鬼塚が村山から得た信頼に応えたいと思ったからだ。ならその感情を強めるために鬼塚にもう少し焦点をあててもいいかもしれない。イメージの端っこがつかめた。
実際既に書いたもので行くか、それともこれから書き直すものですすめるかはわからないが、ここまで考えてようやく全容が見えた気がする。これでかいてみよう、がでたので、また楽しく書こう。
プロットと言った細かい物はたてないが、思考は楽しい。プロットがないからといって突発的な話ではないんだよ、といつもいっているひとりごとを思いながら、とりあえずまた適当に書いてみよう。
参考キャラクター画像:
(初出:2021/08/28 再掲:2023/03/03)