【メイキング】思考の言語化タイムラプスお試し版(題材「カラスの尾羽」)

0.準備

 さて、書き掛けの文章があったので順番がややこしくなってしまいましたが、別の記事で行ったようにまずは書く物語について説明しておきましょう。

 元々この物語は、私が中学生の時に書きたかった物語ですので、書くことは決まっています。概要は下記の通りです。
 全体を書き出すので少し長いですよ!

 いつも笑顔で人が良さそうな少女と無口な少年。少女は周囲から優しくて頼りがいのある素敵な人と思われているが、実際は一人の友人以外はどうでもいい、どうでもいいからいつも笑顔で変わらない、笑顔が無表情じみた子である。みんなを見守ることが多く、自分のことすらどうでもいいような子を少年は見守っている。少年は少女に恋をしているからだ。
 少女の名前は緑瀞亜樹、少年の名前は朽木光介。亜樹は高身長で、昔は女子サッカーでゴールキーパーをしていた。その姿を過去に偶然見たことがあるのが光介。あのときの表情と違い薄っぺらい笑顔の張り付いた亜樹が気になり、見守る。口数が少ないので亜樹に思いが気づかれることはない。それでもなぜか友人でなく自分の側を選ぶ光介にだんだん心を許す亜樹。
 高校の終わる頃、亜樹は女子生徒から告白される。同性である彼女は「思いが叶わないとわかっている、それでも伝えたかった」と言った。混乱する亜樹。
 亜樹は幼少期に親戚の男から好意を寄せられていた。しかし亜樹がまだ十歳であったこと、男は成人であったことが問題となる。男に好意を寄せる女性によりそれが追求され、社会的な問題を抱え男は自殺した過去があった。
 亜樹は男の死を悲しむよりも自殺を選んだ男がストレスだった。自分のせいで人が死んだ。亜樹は幼く恋慕を理解しなかったが、好きだ、と言っていたのにそれをすべて台無しにするような、死を選んだことがなによりも理解しがたかった。それは利己主義でないか。そう思い恋慕による愛を信じられなかった。なのに、同性である女子生徒は告白をした。
 差別がいけないと言われるようになっても、まだ差別は蔓延している、リスクの高いものである。叶うなら、ではなく、叶わないとわかっていながら言葉を告げた少女を亜樹は理解できない。理解するのも恐ろしいような薄ら寒さ。それでいて無しと言い切れない程度の実はわりきれていなかった思考。そういう亜樹を光介が見かける。
 混乱する亜樹に寄り添い、話を聞く光介。叶わないのに告げるだけの恋なんてわからない、ありえないでしょう。利己的な自死をみた過去からそう言い切る亜樹に光介は「好きだ」と告げる。理解しないのは聞いていてわかっている。叶えようと思って告げた訳じゃない。ただ、そういう気持ちはあるんだ。そう伝えるためだけの言葉。返事はわかっているし、いらない。嫌でなければ友人であり続けさせてほしい。それだけ告げ、そっと立ち去る光介。言葉を返せず、膝を抱える亜樹。
 亜樹は恋慕を理解しない。けれども、男が自死を選んだ日から切ったことのない長い髪を切った。驚く周囲とは別に、「似合ってる」とだけ告げる光介に、笑う亜樹。理解はしないが、友情は続く。そうして二人は卒業し、進路をバラバラにする。
 それから約十年。細々と続いた交友関係。店で、光介が「喫茶店を継ぐ」と告げる。
 光介は伯父と親しく、会社勤めをしながらも勉強はつづけていた。伯父が店を畳むとのことで、それを継ぐとのこと。店を持つことを夢見ていたのを知っていたため、応援する、と喜ぶ亜樹。
 すごく素敵だ、と夢想する。口数は少ないけれど、彼に店はよく似合う。そういう夢想の中で、ふと、一緒に笑う自分が見える。ああ、と亜樹がようやく気づく。
 その場所に自分もいたい。ずいぶんたってからようやくの返事は今更すぎて、それでも伝えないには光介があまりに誠実に寄り添ってきたから、言葉にする。今の気持ちはわからないけれど、といいながら。貴方の店に誰かがいてもきっと受け止められるだろう、少し寂しいような気持ちとそれ以上に嬉しい気持ちで祝福してしまえる。それでも、貴方の店に自分が立つのを素敵だと思ってしまったのは事実だ。笑っている自分は本当に嬉しそうに見えた。自分にとっては、これが好き、ということなのだと思う。そう告げた亜樹に驚いた後、嬉しそうに目を細める光介。
 長く続いた思いに改めてひとつの名前が許容され、物語は終わる。

 長いですね! 特にメモはしていませんが書きたかった話なので変わりはほとんどないです。覚えているというか忘れられないから未だにうなっているんですよ。というわけで脳内からひっぱってきました。
 こんなお話を書きたく、しかし自分が至らず今日《こんにち》まで書きあげるにはならなかったものです。
 進まなかった理由は

①会社員から喫茶店主の流れがイメージできなかった(調べたがほしい情報が手に入らなかった)
②光介視点を考えていたものの、光介の告白を受けるシーンや亜樹が告白をするシーンは亜樹の視点を書きたかった。視点が法則無く混合する扱いをうまく処理できなかった。(混合自体は好きだがバランスを考える癖があった為納得できなかった)

 この二点があげられます。特に後者については考えてもしっくりこなく、無理だなあ、という実感でした。
 今回書くに至ったのは、これらが解決に近い場所まで進んだことです。
 まず①についてですが、喫茶店をもちたいと言うひとのエッセイコミックを手に入れる機会がありました。必要な情報はやはり足りないのですが、それでも「どこから始まる」「どのようにして進んだ」「どのような課題やチャレンジ、不安があったか」という情報が手に入りました。元々喫茶店経営をする話ではなく、あくまで会社を続けながら技術をどうするかや、会社を辞めるときにどのような状況なら出来るのかといった部分的な問題でしたので、ひとつ課題が軽くなったのが大きな理由です。
 次に②についてですが、前述したお試しの話をツイートをする少し前、本当最近ですね。「ああ、これ亜樹視点で進めばいいんだ」とひらめいたからです。
 元々光介の視点にしたのは、彼の不器用さ、言葉数が少ないけれど賢明に考えて相手に寄り添いたいと願う思考を晒し、優しい素敵な男性として描きたかったからでした。
 私自身、書くにあたって優しい人を書くのがとても好きです。小話や他のお話などで亜樹視点を書くことも少しはありましたが、彼女の視点よりも彼女を外側からみた視点の方が好きでした。どちらかというと光介の内面を先に出しておきたく、亜樹については「人がよさそうだけれども実際は一人の友人以外どうでもいい」という部分は後に描写しようとしていたのもあります。実は、というのがわかったときの薄ら寒さ、わかる前のひとのよさが彼女のアンバランスさであり人間性として伝えやすかったこと、彼女の「他人はどうでもいい」という視点は自分にとって楽しいといえるような感性ではないことから光介視点を選んできました。
 ですが、亜樹視点でよいとなりました。これは「行動さえ積み重ねれば、その行動理由が判明したときに納得になる、それまで不明だったものでも思いとして受け取られる」ということを別の話で書いて実感したこと、外側から見ていても思いをこぼすことは可能なこと、それこそ一切表情も声の調子もを変えない人物の涙すら、場合によっては物理的ではない涙として描けることを学習したのがひとつのキーでしょう。また、ちょうどその前に読んだ話で誤解されやすい男性キャラクターがいたのですが、彼の視点でなくとも優しさや不器用さ、それによる愛しさはたっぷり伝わってきました。
 そういった後押しもあり、ふと、「亜樹視点でいいんだ」となったのがきっかけです。

 さて、ずいぶん長い付き合いの物語で説明に時間がかかっていますね。物語という手札に加えて、当時のキャラクタについて記しておきましょう。

 緑瀞亜樹
・一七二センチ。
・腰よりも長い髪をひとつしばりにしている。透いているので量はそこまで多くないが、長さが目を引く。
・胸が大きく、背筋がしっかりしている。握力がある。
・女子サッカーでゴールキーパーをしていた。
・一人称は僕。
・いつも笑顔で物腰がおだやかなため、優しい人や良い人と思われている。また高身長で紳士的、レディファーストじみた行動をするため女子人気が高く、後輩などからはあこがれられている。
・幼少期に親戚が自殺した。気にしていないと思っているが無自覚な鬱憤はたまっていた当時、友人から誘われて女子サッカーをはじめる。その友人以外はどうでもいいと思っている薄情なところがある。
・頭が良く運動も出来人当たりもいい、と優れた人物のようだが、料理は苦手だし味の善し悪しもよくわかっていない(家庭料理と縁が薄かった)。
・高所恐怖症だが怖がる様子をみせないので気づかれない(親戚の自殺が原因、光介が苦手なのだなと気づいてくれるエピソードあり)

 朽木光介
・一八六センチ。
・短い髪と一文字の薄い唇。眉間にしわがよくよっており、怖がられたりすることが多い。
・口数は少ないが考えている内に話すタイミングがなくなるだけなので考えてはいる。
・剣道部。
・一人称は俺。
・人が良く、貧乏くじも引きやすい。
・亜樹のことが好き。

 亜樹に比べて光介の方が少ないですね。これは問題を持っているのが亜樹であったからです。二人でお互いの問題を、という物語ではなかったので……。
 私の癖なのですが、物語において主題がたいていひとつくらいであまり多くありません。というのも、書きたい最後の為にどうすればいいのか、という形で他の課題をと作っていくので、主題以外はあまり細かい決めごとが必要ないからです。
 元々キャラクタを先に作成して物語を、となったようなキャラクタですが、どちらかと言うと光介は亜樹に付随したキャラクタの為設定が多く必要ないこと、また私自身の趣味としてあまりややこしい問題を持たないキャラクタが好きということも理由でしょう。
 過去の問題を持っている亜樹は現在の課題を持っていません。いえ、ある意味では持っているのですが、しかし解消したいという願いはほとんどないものです。彼女にとって現在は現在でしか無く、友人以外はどうでもいいからです。過去の傷を忘れるだとか乗り越えるなんて必要ないんです。それはずっと彼女にとってなにかのときにじくりとする膿にも似ていますが、痛みはきっと消えないでしょう。起きたことはどうしようもできない。それを無理矢理ふりきれというのは酷だと思うので、彼女の課題ではありません。ただ、友人一人への依存は課題でしょう。書き手としてはここを少し意識しながら、しかし亜樹は問題だろうと思っても直そうという意志を持たないので、やはり彼女の行動に必要な課題にはなりえないのです。
 逆に、大きな問題を持たない光介は課題を持っています。それは単純に「亜樹に恋をした」というものです。彼は彼の勝手で、亜樹の現状を案じます。それを彼女が選んでいると思いながら、しかし彼女の側にいたいし、彼女がどうでもいいとまとめてしまっている彼女自身をどうでもいいと思いたくないからです。故に、光介はあまり多くの設定を必要としません。彼の人となりは、現在の課題との向き合い方で十分出ます。亜樹の人となりは過去の問題からそうだったのか、となるものですが、光介の行動は彼が誠実であるという性格と亜樹への思いで納得できる、シンプルなものが丁度いい、というのが私の趣味です。
 さて、これらは過去に簡単に決めたものですが、今回のお話に当たってある程度整理が必要でしょう。過去は光介を主軸とするため、「亜樹はどうしてああなのだろうか」という疑問は光介の行動で少しずつ紐解かれます。しかし、今回決めた形式は亜樹です。
 問題点をどのように小出しにするのか、主人公と読者のギャップにストレスがないかという点である程度整理が必要なことと思います。また、中学生の時の設定なので、結構私が扱いきれない設定も多いので一度、というものですね。
 ちなみに、整理といっても削除するわけではありません。当時の私の理由はある程度検証した上で、あまりに突飛でない限りは使用したいと思うからです。あの当時書きたかったから、今あるので。ただ、亜樹というキャラクタは付き合いが非常に長いにも関わらず私の中で特に扱いづらいものです。基本的に書くのが好きなキャラクタは、平凡が多いので……。その為一度整理しますね。

 彼女がサッカーをしているのは、単純に当時の私の好きな漫画にサッカー漫画があったからですね。ちょっと要素が多いかな、と思わなくもないんですが、彼女の握力や背丈の設定の元なので仕方ありません。高身長で背筋もしっかりしているなら胸が大きいだろうと設定しましたが、そうじゃない人も多いよ当時の私……と遠い目をします。グラマラスなキャラクタも手札にほとんどないのにな……。
 非常に悩むのは一人称「僕」なのですが、非常に頑張って僕のままにします。実は「僕」と言う女の子を書くのがあまり得意ではありません……。本当苦手な要素が多いですねこのキャラ。読む分には好きなのですが、「なぜ僕を選んだか」と考えるに当たってその一人称を選ぶ子を私はキャラメイクしない点があるので。
 物腰や親戚の死、高所恐怖症などについてはそのまま使いやすいものでしょう。髪の長さについては男が生前亜樹の髪を好きと言ったのが呪いのようにそのままになっている設定ですが、もっとわかりやすく「亜樹の髪を好きといい、切るときは教えてほしい」と言われて当時約束をしてしまった、教える相手がいなくなり、好きでもないが約束をやぶれない、という設定にしようと思いました。書き忘れていましたが元々「本当のことは言わないが嘘もつかない」ようなキャラクタでしたので、「約束を破れない、嘘をつけない」というのも幼少期から引きずっているにしましょう。過去の問題に対して現状の行動制限があると、過去と現在が繋がってわかりやすいので。

 ある程度整理した上で、これをもっと短くまとめます。ベースは結局のところ私の脳味噌の中でいいんです。ただ物語としてどうしたいか、どんなお話かは表現を選ぶ基準ですし、それがはっきりしていると私のテンションがあがるので簡易にまとめます。
 カクヨムという投稿サイトを使っているのですが、あちらのキャッチコピーやあらすじが中々楽しかったのが理由ですね。なくたっていいんでしょうけど、まあ面白いので。

 まとめる、といっても結論は簡単です。本当に単純にいってしまえば亜樹が光介に告白をすればおしまいなのです。降り積もった愛がゆっくりと彼女の心に染み渡った、そういう結末がこの物語です。

 いつも笑顔で人のいい少女・緑瀞亜樹は、その実一人の友人以外どうでもいいと思っていた。どうでもいいからこそ優しくあれる。その程度でのらりくらりと日々を過ごしていた亜樹。ある日友人に頼まれ、彼女と親しくなろうとする少年達との場に付きそう。珍しくその付き合いが続く中、無口な少年はなぜか亜樹の側に居続けた。
 同じく付き添いの為か友人とは距離をとる少年と、亜樹は時折言葉を交わす――

 これは、一人の少女が、静かな優しさにふれた日々の物語。

 ざっくりとするとこんなところでしょうか。「いつも~交わす」まではあらすじ、「これは、一人の少女が~」の一文はキャッチコピーですね。ちなみに最初は「一人の少女が、」の読点がありませんでした。ここで少女と静かな優しさの距離を出したいので読み返して追加しています。ただ、読点が短い間に続くので変更するかも知れません。現状の趣味です。
 とりあえず今ざっくり思いつきで書き出して思ったんですが、少女が女性になる話、のようなものはあまり好みじゃない言葉だったようです。単純な話、恋を理解しなくたって大人になります。女性となりたいかなりたくないかという問題はありますが、女性として生きるのに恋は必須となりません。恋愛をしないセクシャリティもありますし、結婚が生涯設計に入らないことが物珍しくない時代にナンセンスだなと思ってやめました。キャッチコピー難しいですね。
 浮かばないまま最初にでてきたのがその「女性になる」でしたが、気持ち悪いな、と思ったので浮かんだ瞬間削除となりました。こういった文節は綺麗に使えば違和感がないと思うんですが、私が使うにはアウトだったようですね。自分の感性は思い浮かんだときに心にメモしておきます。昔オーケイだったものがだめになったり、逆もあるので。当時の自分と現在の自分とこれからどうしたいかも含めて、書いているとき・考えているときに浮かんだものは大事にしたい思考です。

 さてさっくりとまとまりました。あらすじについてはもっと短く、「いつも笑顔な少女と無口な少年が、ゆっくりと言葉を交わす物語」くらいにまとめても問題ないと思います。場合によっては恋物語と書いてもいいと思いますが、個人的には「愛の話」だとも思っています。でも恋だしね、難しいね。このあたりはおいおい自分との摺合わせです。
 こういった形でイメージをまとめましたら、中身についてですね。ようやっと下準備が終わりました。基本的にこのイメージは頭の中です。今回は思考の言語化でこのように文字にしていますが、前述したとおり昔のこの話はするっと出てきてくれるので、まあ書きたい話は忘れないという実感で頭の中にとどめています。
 あ、キャラクタの身長とか数字データはメモしてありますね。外見の絵もある。中身は覚えてられるんですが、いかんせん細かい数字や名称とかは忘れてしまうのです。このあたりはメモ、便利。

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